
介護記録の音声入力AI|訪問記録の下書きをつくる手順
介護記録の音声入力AI|訪問記録の下書きをつくる手順
訪問や施設の記録づくりに、毎日1時間近く取られていないでしょうか。利用者さんと向き合う時間を削ってまでスマホやPCに向かうのは、負担が大きいと感じている方も多いはずです。
この記事では、話した内容から訪問記録やSOAPの下書きをつくる音声入力AIの使い方を、実際に現場を想定して試した結果とあわせて紹介します。ITが得意でない方でも、スマホとチャットAIだけで今日から試せる手順に絞っています。
【画像: スマホの音声入力で訪問記録の下書きを作成している画面】
介護記録の音声入力AIとは|何が「話すだけ」でできるのか
音声入力AIとは、話した言葉を文字に変換し、さらに記録の形に整えてくれる仕組みのことです。ここでは2つの働きを分けて考えると、理解しやすくなります。
1つ目は「文字起こし」です。スマホに話しかけると、その音声を文章に変換します。iPhoneやAndroidに最初から入っている音声入力も、この機能にあたります。
2つ目は「整形」です。話し言葉のままの文章を、記録らしい書き方に整えます。ここを担うのがChatGPTやGeminiのようなチャットAIです。「えーと」「あの」といった口ぐせや言い直しを消し、SOAP形式などに並べ替えてくれます。
SOAPとは、S(利用者の訴え)・O(観察した事実)・A(評価)・P(計画)の4項目で記録を整理する書き方です。この並べ替えこそ、AIが得意とするところです。
つまり「話すだけ」で完結するわけではなく、話した内容の下書きが自動でできる、というのが正確な理解です。最終的な確認と仕上げは人が行います。
介護ソフト側でも対応が進んでいます。ワイズマンは音声記録AIオプションを2026年3月にリリースしました(ワイズマン公式ニュース)。専用ソフトを待たなくても、手持ちのスマホとチャットAIで近いことは始められます。
訪問記録・SOAPを音声で下書きするステップ
ここからは、iPhoneの音声入力と無料のチャットAIだけで下書きをつくる手順を紹介します。専門的な設定は使いません。コピペで進められる形にしています。
ステップ1|スマホの音声入力で話した内容を文字にする
まず、記録したい内容を声に出して文字にします。iPhoneならキーボードのマイクボタンを押すだけで音声入力が始まります。
このとき、きれいに話そうとしなくて大丈夫です。順番が前後しても、言い直しても構いません。後からAIが整えるので、思い出した順に話してしまって問題ありません。
メモアプリやLINEの入力欄など、文字が残る場所ならどこでもかまいません。話し終えたら、その文章をコピーしておきます。
ステップ2|「事前情報プロンプト」を先にAIへ渡す
ここが下書きの精度を決める最大のポイントです。文字にした内容をそのまま貼る前に、利用者さんの状況をAIに伝えておきます。この最初の指示文を「事前情報プロンプト」と呼びます。プロンプトとは、AIへの指示文のことです。
なぜ先に渡すかというと、AIは背景を知らないと言葉を取り違えやすいからです。誰の、どんな場面の記録かを先に伝えるだけで、仕上がりが大きく変わります。
以下はコピペで使えるテンプレートです。AIの入力欄にまず貼り、【 】の中を自分の状況に書き換えてください。
あなたは訪問介護の記録作成を手伝うアシスタントです。
これから私が話した内容を渡すので、SOAP形式の記録の下書きに整えてください。
【前提情報】
・利用者:80代女性、要介護3、右麻痺あり
・サービス:訪問介護(身体介護30分)
・今日の場面:昼食介助と服薬確認
・注意点:嚥下(えんげ)にムラがある方です
【整形のルール】
・話し言葉の口ぐせや言い直しは削除してください
・事実(O)と私の評価(A)を混ぜないでください
・不明な点は勝手に補わず「要確認」と書いてください
準備ができたら「記録を送ってください」と返してください。
ステップ3|貼り付けて整形させ、人の目で確認して転記する
AIが「記録を送ってください」と返したら、ステップ1でコピーした文章を貼り付けます。するとSOAP形式に整理された下書きが返ってきます。
ここで大切なのは、AIに「不明な点は補わせない」ことです。テンプレートに「勝手に補わず要確認と書く」と入れているのは、AIが事実らしい嘘をつくのを防ぐためです。
返ってきた下書きは、必ず人が確認します。特に薬剤名や数値、専門用語は、声に出した内容と食い違っていないかを見ます。問題なければ、介護ソフトや記録用紙に転記して完成です。
この「話す→事前情報を渡す→整形させて確認する」という流れに慣れると、白紙から書き起こすより下書き作成の時間はかなり短くなります。ゼロから文章を考える負担が減るのが、いちばんの利点です。
現場でつまずくポイントと、精度を上げる鍵
ここでは、実際に現場を想定して試したときに分かったことを正直にお伝えします。
今回は、iPhoneの音声入力と、整形にGeminiを使って検証しました。出力の形を細かく指定するプロンプトと、音声のクセに合わせた指示を事前に作り込みました。その結果、下書きの精度は体感で95%ほどでした。話し方は完全に自由で、決まった言い回しに寄せていません。
ただし、この結果には条件があります。設定を作り込んだ前提での数字だという点は、正直にお伝えしておきます。読者の方が手軽に始める場合は、前章のテンプレートを使う簡易版から試すのが現実的です。
精度を左右したのは「事前情報」だった
検証で最もはっきりしたのは、事前情報を渡すかどうかで仕上がりが大きく変わる、という点です。利用者さんの状況を先にプロンプトで伝えておくと、自由に話しても意図どおりに整形されました。
一方、事前情報を与えずに同じように話すと、出力の質は明らかに落ちました。AIが場面を推測で埋めてしまうためだと考えられます。前章のステップ2を飛ばさないことが、そのまま精度に直結します。
なお、複数人が同時に話す面談やカンファレンスの記録では、誰の発言かを分ける「話者分離」機能を持つツール(Nottaなど)が有効とされています。こちらは一般的に紹介される方法で、今回は試していません。
口語のクセを記録調に整えるのがAIの価値
音声入力の下書きでは、「えーと」「なんか」といったフィラー(口ぐせ)や、「〜って感じで」といったくだけた語尾が混じります。これを記録らしい文体に整えるのが、チャットAIのいちばんの働きです。
自分で消そうとすると手間ですが、AIなら一度の指示でまとめて整います。ここを任せられるだけでも、書き直しの負担はぐっと減ります。
誤変換は「起きうる前提」で人が確認する
今回の検証では、目立った誤変換は起きませんでした。事前情報プロンプトが効いたためと考えられます。ただしこれは「誤変換が絶対に起きない」という意味ではありません。
一般に、音声入力では次のような言葉が取り違えられやすいと言われています。読者の方が使う際は、この点を人の目で必ず確認してください。
- 薬剤名や、褥瘡(じょくそう)などの専門用語
- 利用者名・事業所名などの固有名詞
- 「経口」と「経管」のような同音・類音の語
- 服薬量やバイタルなどの数値
これらは記録の正確さに直結します。AIの下書きはあくまで下書きとして、最後は人が事実と照らし合わせる前提で使ってください。
なお、環境音については、今回の検証では問題になりませんでした。音声を文字に変換する過程で、周囲の物音は文章に残りにくいためです。
個人情報を音声AIに通す前に確認すること
音声入力AIは便利ですが、記録には利用者さんの個人情報が含まれます。クラウド上のAIに通す前に、確認しておきたい点があります。
チャットAIの多くは、入力した内容を外部のサーバーに送って処理します。利用者名や病名などをそのまま入力すると、個人情報を外部に送ることになります。
介護事業者の個人情報の扱いについては、国が指針を示しています。個人情報保護委員会と厚生労働省による「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」です(個人情報保護委員会)。委託先の監督や第三者提供の考え方が整理されています。
実務では、次のような工夫でリスクを下げられます。
- 利用者名は「Aさん」などに置き換えて入力する
- 事業所名や住所など、特定につながる情報は入れない
- 前章のテンプレートも、実名ではなく属性(年代・要介護度など)で書く
そのうえで、クラウドのAIに記録を通してよいかは、事業所ごとにルールが異なります。導入の前に、事業所の規程と、利用者さんの同意の範囲を必ず確認してください。 判断に迷う場合は、管理者や個人情報の担当者に相談するのが安全です。
まとめ
- スマホの音声入力とチャットAIを使えば、訪問記録やSOAPの下書き作成の時間を大きく減らせます
- 精度を左右するのは「事前情報プロンプト」です。誰の・どんな場面かを先に伝えると、自由に話しても整った下書きになりました
- 個人情報の扱いは事業所の規程と利用者の同意が前提です。薬剤名・数値・固有名詞は人の目で必ず確認してください
介護現場でのAIの使いどころを広く知りたい方は、介護現場のAI活用の全体像 もあわせてご覧ください。

この記事を書いた人
清水 優太
社会福祉士 / フリーランスエンジニア(歴6年)。 福祉×IT・AIを軸に、中小企業向けのAI導入支援・Web制作を行っています。