
IT導入補助金でAIツールは対象になるのか
「AIツールを導入したいが、初期費用が数十万円になる」 「補助金が使えるらしいが、調べるとサイトごとに名称も金額も違う」
小規模事業者からよく聞く悩みです。実際、この補助金は2026年度に名称が変わり、 枠によって補助率も大きく異なります。
この記事では、AIツールが補助対象になる条件と申請前に確認すべき点を、 公式サイトで確認できた範囲に絞って整理します。 制度は年度と募集回で変わるため、最終的な確認は必ず公式サイトで行ってください。
IT導入補助金は2026年度から名称が変わりました
「IT導入補助金」で検索してこの記事にたどり着いた方は、まずここを押さえてください。 2026年度から、この制度の名称は デジタル化・AI導入補助金2026 に変わっています。 事業としての正式名称は「中小企業デジタル化・AI導入支援事業」です。
公式サイトの制度概要によると、制度の目的は 「中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金」とされています。
名称に「AI導入」という文言が加わりました。 ただし後述するとおり、名称から受ける印象と実際の対象範囲にはずれがあります。 ここを取り違えると、準備が無駄になりかねません。
2026年度の申請枠と補助率
5つの申請枠
公式サイトでは、2026年度の申請枠として次の5つが案内されています。
- 通常枠
- インボイス枠(インボイス対応類型)
- インボイス枠(電子取引類型)
- セキュリティ対策推進枠
- 複数者連携デジタル化・AI導入枠
重要なのは、補助率が枠ごとに違うことです。 同じ制度でも、どの枠で申請するかによって自己負担額が変わります。 まずは通常枠とインボイス対応類型の違いを押さえておくと、判断しやすくなります。
通常枠の補助率と補助額
通常枠のページには、 補助率として「1/2以内、2/3以内」と記載されています。 このうち2/3が適用されるのは条件付きです。
公式の記載によると、令和6年10月から令和7年9月までの間で3か月以上、 令和7年度改定の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が、 全従業員の30%以上いる場合が該当するとされています。 自社が条件を満たすかは、公募要領で確認してください。
補助額は、導入する業務プロセスの数で区分されています。
| 区分 | 補助額 |
|---|---|
| 1プロセス以上 | 5万円以上150万円未満 |
| 4プロセス以上 | 150万円以上450万円以下 |
下限が5万円である点に注意が必要です。 月額数千円のツールを1つ入れるだけ、という規模では対象になりにくい設計です。
ネット上の情報と食い違う場合は公式を見る
この補助金を調べていると、「補助率3/4」「小規模事業者は4/5」といった数値を目にします。 一方で通常枠のページには「1/2以内、2/3以内」とあります。 この食い違いは、情報が古いからではありません。枠が違うからです。
3/4・4/5 は、 インボイス枠(インボイス対応類型) の補助率として公式に記載されている現行の数値です。 同ページの注記によると、補助額50万円以下の部分について 中小企業は3/4以内、小規模事業者は4/5以内とされています。 50万円超〜350万円以下の部分は2/3以内です。
ただしこの類型は、ソフトウェアが「会計」「受発注」「決済」のうち 1機能以上を有することが条件とされています(50万円超の場合は2機能以上)。 どんなツールでもこの補助率が使えるわけではありません。
つまり、目にした数値がどの枠のものかを確認することが大切です。 実際、支援の場でも高い補助率を前提に予算を組んでいたものの、 検討中のツールが別の枠に該当し、想定と自己負担が変わったことがありました。 補助率は事業計画の前提そのものです。必ず枠ごとの公式ページで確認してください。
AIツールなら何でも対象になるわけではありません
「AI導入補助金」という名称から、AIツールなら幅広く対象になると受け取られがちですが、 実際はそうではありません。
補助の対象となるのは、事務局の審査を経て公式サイトに登録されたITツールに限られます。 自分で気に入ったAIサービスを契約し、後から領収書を出して補助を受ける、 という流れは想定されていません。
さらに公式サイトの制度概要には、申請にあたって 「デジタル化・AI導入補助金事務局に登録された『IT導入支援事業者』と パートナーシップを組んで申請することが必要」とあります(複数者連携枠を除く)。 交付申請はこの支援事業者と共同で作成する形になります。
実際に「このAIサービスを補助金で導入したい」と相談を受けたものの、 そのサービスが登録ITツールになく、実現しなかったことがあります。 ツール選びの前に、公式のITツール・IT導入支援事業者検索で 登録の有無を確認するほうが、遠回りになりません。
業務プロセス要件という関門
もう一つの関門が、業務プロセスの要件です。 通常枠のページには 「1種類以上の業務プロセスを保有するソフトウェアを申請すること(汎用プロセスのみは不可)」 と記載されています。
対象となる業務プロセスとして挙げられているのは、顧客対応・販売支援、決済・債権債務管理、 供給・在庫・物流、会計・財務・経営、総務・人事・給与などです。
この要件を読むと、想定されているのは特定の業務に組み込まれたソフトウェアだと分かります。 汎用的な対話型AIを単体で導入する形は、要件を満たしにくい構造です。 一方、会計や人事のシステムにAI機能が組み込まれたものは、検討の余地があります。
申請前に確認しておく3つのこと
スケジュールから逆算する
公式サイトのスケジュールによると、 通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠の申請締切は2026年7月21日(火)17:00、 交付決定は9月2日(水)の予定です。 事業実施期間は交付決定から2027年2月26日(金)17:00までとされています。
複数者連携枠だけは日程が別で、締切が8月25日(火)17:00、交付決定は10月7日(水)の予定です。 事業実施期間も他の枠より長く、2027年3月31日(水)17:00までとされています。
この記事を読んでいる時点で、直近の回に間に合わせるのは現実的ではありません。 次回以降の募集に備える前提で準備を進めるのが妥当です。
準備に時間がかかるのは、申請そのものより手前の工程です。 公式の申請フローによると、 GビズIDプライムの発行までおおむね2週間かかるとされています。 SECURITY ACTIONの宣言済アカウントID発行は、おおむね2〜3日です。
ここに支援事業者の選定とツールの比較検討が加わります。 締切間際に動き出すと、間に合わないことがほとんどです。
自社が対象事業者か
公式サイトでは、対象者は 「日本国内で法人登記され、日本国内で事業を営む法人または個人である 生産性向上に資するITツールを導入する中小企業・小規模事業者等」とされています。
「中小企業・小規模事業者」に該当するかは、業種ごとに資本金や従業員数の基準が定められています。 この基準は中小企業庁が定義しており、業種によって数値が異なります。 自社が該当するかは、 中小企業庁の中小企業・小規模企業者の定義と 公募要領で必ず確認してください。
補助金は後払い
見落とされやすいのが、お金の流れです。 公式サイトの 交付決定後に必要な手続きによると、 ITツールの発注・契約・支払いは、事務局から交付決定を受けた後に行うものとされています。
そして交付決定前に発注や契約、支払いを行った場合は、 補助金の交付を受けられないとされています。 先に導入してから申請する、という順序は通りません。
補助金は原則として、事業者がいったん支払ったあとに交付されます。 つまり一時的な立て替えが発生します。 資金繰りへの影響は事業者ごとに異なります。 判断は支援事業者や顧問の専門家にも相談したうえで進めることをおすすめします。
補助金を待たずにできることもあります
ここまで読んで、「自社には条件が合わない」と感じた方もいると思います。 その判断は、必ずしも後ろ向きではありません。
補助金は手段であって、目的ではありません。 補助率が高いからと身の丈に合わない規模のツールを導入し、 結局ほとんど使われないまま残っている。そうした状況は珍しくありません。
これまで複数の現場で導入を支援してきた経験から言えるのは、 月額数千円のツールを1つ、担当者1人が使うところから始めたケースのほうが、 定着率が高かったということです。
小さく試して業務に合うと分かってから、補助金を使って本格導入する。 この順序のほうが、失敗したときの損失も小さく済みます。
まず自分の業務のどこに時間が取られているかを洗い出すことが出発点です。 そこが定まっていないと、補助金の審査で求められる事業計画も書けません。
まとめ
- IT導入補助金は2026年度から「デジタル化・AI導入補助金2026」に名称が変わりました
- 補助率は枠ごとに異なります。目にした数値がどの枠のものかを必ず確認してください
- 対象は登録されたITツールに限られ、登録済みのIT導入支援事業者との連携も必要です
AIを実際の業務にどう組み込むかについては、 AIで変わるバックオフィス:経理・人事・法務の効率化最前線 もあわせてご覧ください。会計・人事まわりは、本補助金の対象業務プロセスとも重なる領域です。

この記事を書いた人
清水 優太
社会福祉士 / フリーランスエンジニア(歴6年)。 福祉×IT・AIを軸に、中小企業向けのAI導入支援・Web制作を行っています。