個別支援計画をAIで下書きする手順と注意点
個別支援計画の作成には、毎回まとまった時間がかかります。アセスメントを読み込み、目標や支援内容を文章に整える作業は、集中力も時間も必要です。
この記事では、汎用のチャットAIで個別支援計画の下書きを作る手順を紹介します。社会福祉士として現場に関わり、AI・DX導入支援を続けてきた筆者が、実際に試した結果とあわせて整理しました。
どこまでAIに任せられるのか、どこは人が担うべきか、詰まりやすい点や個人情報の注意まで具体的に扱います。
個別支援計画づくりに時間がかかる理由と、AIで変えられる範囲
個別支援計画は、サービス管理責任者(サビ管)や児童発達支援管理責任者が作成する、支援の設計図にあたる書類です。作成は、アセスメント、原案作成、担当者会議、本人・家族の同意、モニタリングという流れで進みます。個別支援計画は、その一連の流れの中心に位置します。
時間がかかる主な理由は、情報を集める工程よりも「文章にまとめる工程」にあります。頭の中にある支援の方針を、様式の項目に沿って過不足なく言語化する作業は、思いのほか負荷が高いものです。
AIが助けになるのは、まさにこの言語化の部分です。ただし、下書きが作れることと、計画として使えることは別だと最初に押さえておく必要があります。
【 個別支援計画の作成フロー(アセスメントからモニタリングまで)を示した図】

令和6年度報酬改定と5領域で求められること
児童発達支援・放課後等デイサービスでは、令和6年度の報酬改定を受けて、個別支援計画で「5領域」との関連を踏まえることが求められるようになったとされています。
5領域とは「健康・生活」「運動・感覚」「認知・行動」「言語・コミュニケーション」「人間関係・社会性」の5つです。あわせて、支援プログラムの作成・公表も求められる流れになっています。
改定の具体的な要件や時期は変わる場合があるため、必ずこども家庭庁の令和6年度報酬改定の資料で最新の内容を確認してください。なお本記事は児童分野に限らず、生活介護や就労支援など成人向けサービスの個別支援計画も想定しています。
AIで「代替できる部分」と「できない部分」
筆者の整理では、AIに任せやすいのは次の部分です。集めた情報を項目ごとに整理する、丁寧な言い回しに整える、目標の表現案を複数出す、といった作業です。
一方で、AIに任せられないのは判断そのものです。本人の意向をどう受け止めるか、どの課題を優先するか、家族との合意をどう作るかは、人が担う領域です。
文章化はAI、判断と合意は人。この線引きが、この記事全体を通しての前提になります。
AIで下書きできる範囲を実際に試して確かめた
ここからは、実際に汎用のチャットAIで下書きを作ってみた結果を共有します。利用者が特定されないよう、内容は十分に抽象化した架空の設定で試しています。
どこまで書けて、どこで手が止まったか
うまくいったのは、アセスメントの要約と、目標文の叩き台づくりでした。箇条書きで渡した情報を、「総合的な支援の方針」や「長期目標」の形式に整える作業は、想像より自然にこなしました。
短期目標を「〇か月で、△△が、□□までできる」という測定しやすい形に書き直す作業も得意でした。表現のバリエーションを複数出せるので、選ぶ側に回れるのは助かります。
一方で手が止まったのは、その人らしさを反映する部分です。何を大切にしている方なのか、どんな場面で力を発揮するのかといった個別性は、渡した情報以上のものは出てきません。当然ですが、AIは利用者を知らないからです。
固有名詞・専門用語の誤変換でつまずく
実際に試して最も煩わしかったのは、固有名詞と専門用語の扱いです。事業所名や地域名、支援技法の名称などが、それらしい別の言葉に置き換わることがありました。
制度用語も油断できません。加算やサービスの正式名称が、似て非なる表現に変わっていた例がありました。読み流すと気づきにくいため、固有名詞は人の目で必ず確認する前提で使うのが安全です。
音声入力と組み合わせる場合は、この誤変換がさらに増えます。記録の音声入力を試した経験からも、専門用語ほど変換に弱いという感触があります。
目標が抽象的・5領域の後付けになりがち
もう一つ詰まったのが、目標が抽象的になりやすい点です。指示を工夫しないと、「楽しく過ごす」「成長を見守る」といった、評価しにくい表現が出てきます。
5領域への当てはめも注意が必要でした。AIに領域名を渡すと、体裁は整うものの、中身が伴わない「後付けのタグ付け」のようになることがあります。
こうした表現は、モニタリングで達成度を測りにくく、支援の振り返りにもつながりにくくなります。抽象的な言葉が出てきたら、具体化は人が引き取る、と割り切るのが現実的でした。
アセスメントから下書きを作るプロンプトの考え方
詰まりやすい点を踏まえると、プロンプト(指示文)の作り方が仕上がりを大きく左右します。ここでは筆者が有効だと感じた考え方を2つ紹介します。
情報を渡す順番と出力の「型」を指定する
まず、渡す情報を整理してから入力します。本人・家族の意向、アセスメントで見えた課題、強みや好きなこと、環境の情報を、箇条書きで分けて渡すと精度が上がりました。
次に、出力の「型」を指定します。「様式の項目名ごとに、それぞれ2案ずつ、120字以内で」のように、形式と分量を先に決めておくと、後の手直しが減ります。
様式の項目名は、自事業所で使っている様式に合わせて指定すると噛み合いやすくなります。様式は自治体や法人で定める場合があるため、まず自分が使う様式を手元に用意しておくとスムーズです。
ニーズ→長期目標→短期目標を段階的に出させる
一度にすべてを書かせようとすると、全体がぼやけがちです。そこで、工程を分けて段階的に出させる方法が有効でした。
具体的には、まずニーズの整理だけを依頼します。次にそれを踏まえた長期目標、続いて短期目標、と順に進めます。前の出力を確認してから次に進むので、方向のずれを早く直せます。
段階を分けると、途中で「この課題を優先したい」と人が軌道修正しやすくなります。AIに主導権を渡さず、あくまで下書き役に留める進め方です。
【 チャットAIに段階的に指示を出して下書きを作る画面のイメージ】

クラウドAIに利用者情報を入れる前の確認事項
ここは手順の前に必ず押さえてほしい部分です。多くのチャットAIはクラウド上のサービスで、入力した情報が事業所の外に出ることを意味します。
個人情報保護委員会は、生成AIの利用について注意喚起を公表しています。個人情報を含む内容を入力する際は、その利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認することなどが求められているとされています。詳細は個人情報保護委員会の注意喚起を確認してください。
サービスによっては、入力した内容が学習などに使われる場合があります。**氏名や住所、病名といった情報は、そのまま入力しない運用が無難です。**実務では、記号や仮名に置き換えて渡し、下書きに戻す形が扱いやすいと感じました。
そもそもクラウドAIに利用者情報を入力してよいかは、事業所のルールや契約で先に確認する必要があります。守秘義務の考え方については、士業の生成AI利用と守秘義務の整理も業種は違いますが参考になります。判断に迷う場合は、管理者や専門家に相談してください。
AIの下書きをサビ管が仕上げるチェック観点
AIが作るのはあくまで下書きで、計画の責任は作成者であるサビ管や児発管にあります。最後は人が仕上げる前提で、筆者が使っているチェックの観点を挙げます。
- 本人・家族の意向が、その人の言葉として反映されているか
- 目標が具体的で、モニタリングで達成度を測れる表現になっているか
- 固有名詞・専門用語・制度用語に誤りがないか
- 5領域が体裁だけでなく、支援内容と結びついているか
- 個別性が失われ、どの利用者にも当てはまる無難な内容になっていないか
このチェックを通すと、AIの下書きは「叩き台」から「使える計画」に近づきます。逆に言えば、この工程を省くと、体裁は整っていても中身の薄い計画になりかねません。
AIで浮いた時間を、本人と向き合う時間や、チームでの検討にあてる。そこにこそ、下書きを効率化する意味があると考えています。
まとめ
- 個別支援計画の「下書き作成」に限れば、汎用のチャットAIでも実務の助けになります
- ただし固有名詞や専門用語の誤変換、目標の抽象化は起きるため、人の確認は省けません
- クラウドAIに利用者情報を入れる前に、個人情報の扱いと事業所のルールを必ず確認してください
記録業務そのものの効率化については、介護記録の音声入力AIで訪問記録の下書きをつくる手順もあわせてご覧ください。

この記事を書いた人
清水 優太
社会福祉士 / フリーランスエンジニア(歴6年)。 福祉×IT・AIを軸に、中小企業向けのAI導入支援・Web制作を行っています。